しろくまきもの誕生物語 第四章|着物ワンピースドレスの誕生
傷んだ着物が、問いを生んだ
第3章で紹介した、スマート帯の完成により「5分で着られる」というコンセプトはより確かなものへと育っていきました。しかし開発チームが向き合う課題は、帯だけではありませんでした。
アンティーク着物は、適切に保管していても、年月の経過とともにそれまで見えなかったシミや汚れが浮かび上がることがあります。一度も袖を通していない着物であっても、保管環境や湿気、防虫剤の影響によって変色する場合があります。
「しろくまきもの」では、一部にシミや汚れがある着物をそのままセパレート着物へ仕立て直すことはしません。しかし傷んだ部分を除けば、美しい柄や繊細な染め、上質な織りが残っている着物は数多くあります。
一部に傷みがあるという理由だけで、その着物が持つすべての価値を失わせたくない。残された美しさを生かし、現代の装いとして、もう一度誰かにまとっていただくことはできないだろうか。その問いが、着物ワンピースドレスの出発点でした。
着物をほどき、布へ戻すところから
残された美しさを最大限に生かすため、まず着物の縫い糸を一本ずつ丁寧にほどき、一枚一枚の生地へと戻していきます。単なる解体ではありません。一着の中に残された価値を見つけ、次の装いへつなぐための、大切な工程です。
布の状態に戻すことで、どの部分が使えるのか、どこに傷みがあるのかを一枚ずつ丁寧に確認できます。シミや汚れのある部分を避けながら状態の良い部分を見極め、反物の幅と長さをできる限り生かして仕立てたもの。それが「着物ワンピースドレス」です。
直線裁ちが生む、自然なドレープ
着物の反物幅は、一般的に約37センチです。そのため、着物本来の形を保ったセパレート着物では、身長や肩幅、胴まわりなどによって着用が難しい場合があります。
着物ワンピースドレスでは、反物の幅を生かしながら生地を直線的に縫い合わせています。裁断する部分を可能な限り少なくすることで正絹の生地を無駄なく活用するとともに、着用した際に自然で美しいドレープが生まれるよう設計しました。
着る方の体格によって、生地が描くドレープの表情も自然に変化します。身体と生地の間にゆとりがある場合は縦のラインを生かしたすっきりとしたシルエットに。身体に沿う部分が増えても、強く締め付けることなく、ゆったりとしたシルエットに仕上がります。そのまま着ることも、ベルトなどでウエストを絞ってシルエットに変化をつけることも。
体型を服に合わせるのではなく、着る方の身体や好みに合わせて着こなし方を選べる設計です。
「サイズインクルーシブ」は、結果として生まれた
開発当初から「サイズインクルーシブ」という言葉を掲げていたわけではありません。正絹の生地をできる限り無駄なく使うこと。体格を理由に着物を諦める方を減らすこと。性別にとらわれず、自分らしく着ていただくこと。それらをひとつずつ追求した結果、細身の方から体格の大きな方まで、さらに男性にも楽しんでいただける一着が完成しました。
同じアンティーク着物を使っても、一着ごとに仕立てられた時代も寸法も異なります。布に戻した際の生地幅も長さもすべて違う。だからこそ完成する着物ワンピースドレスは、色も柄も表情もすべて異なる、世界に一着だけの一点ものです。同じものは、どこにも存在しません。
新しい着物文化の提案として
一部の傷みを理由に、着物一着すべてを諦めるのではない。残された美しさを見極め、丁寧な手仕事によって新たな価値を与え、次の世代へつないでいく。それは、着物を昔と同じ形で残すだけではなく、受け継がれてきた価値を現代の暮らしへつなぎ直す、新しい着物文化の提案でもあります。
こうして誕生した「着物ワンピースドレス」は、アンティーク着物を再生した一着であると同時に、誰もが正絹の美しさを自分らしく楽しむための、新しい選択肢です。
次章へ
セパレート着物、スマート帯、そして着物ワンピースドレス。一着の着物が最後まで価値を持ち続けるための仕組みが、少しずつ整っていきました。国内での挑戦を重ねる中で、開発チームの視線はやがて、より大きな問いへと向かっていきます。
「この着物を、世界へ届けるにはどうすればいいか」
次章では、しろくまきものが描く未来のビジョンと、日本の伝統文化を次の世代へつないでいくための構想についてお伝えします。