しろくまきもの誕生物語 第三章|「一人だけ着られない」をなくすために
帯を一人で結べなければ、気軽に着物は楽しめない
帯を「結ぶもの」から「装着するもの」へと発想を転換したことで、着付けの知識がない方でも一人で帯を身につけられる道筋が見えてきました。しかし、開発チームの議論はそこで終わりませんでした。
帯を美しく結ぶには、着付けに関する知識や技術が必要です。また、身体に巻き付けて締める従来の帯は、着用中に窮屈さを感じることもあります。「しろくまきもの」の帯を開発するうえで最も大切にしたのは、訪日観光客をはじめ、着物を着た経験がない海外の方でも、人の手を借りずに一人で簡単に装着できることでした。
市販されている簡易帯の中にも、紐や面ファスナー、金具などを使って取り付けるものがあります。しかし、着物文化に馴染みのない方にとっては、紐の結び方や留める位置、締め具合が分かりにくい場合があります。せっかく着物に興味を持っていただいても、帯を一人で装着できなければ、気軽に着物を楽しむことはできない。開発チームはそう考え、より直感的に扱える帯の構造を追求していきました。
複雑な手順を、限りなくゼロへ
考案したのは、ベルトのように胴まわりへ巻き付け、面ファスナーで留めるだけのシンプルな構造です。帯を結ぶための技術は必要ありません。腰にぐるりと巻き、ファスナーを留めるだけで装着できます。初めて着物を着る方でも、直感的に扱える帯を目指した結果でした。
しかしここで、新たな課題が生まれました。帯ベルト単体では、着る方のウエストサイズに合わせて複数のサイズを用意しなければならない。「できるだけ一つの帯を、より幅広い体型の方に使っていただけないか」
その問いに対する答えが、専用のアタッチメントでした。
帯ベルトにアタッチメントを取り付けることで、対応できるウエスト寸法を約20センチ広げることができます。着る方の体格や着こなしに合わせて調整できるため、一つの帯ベルトをより多くの方に着用していただける仕様になりました。面ファスナーやアタッチメントの接続部分はすべて帯飾りの裏に隠れる設計のため、正絹の帯が持つ光沢や柄の美しさはそのまま。機能性と美しさを、同時に追いかけた結果です。
椅子にも、車いすにも、寄り添う帯へ
開発においてもうひとつ重視したのが、椅子や車いすに座ったときの快適さでした。
椅子に座り、背もたれを使うことが日常的な海外の方にとって、背中にふくらみのある一般的な帯結びは背もたれに当たり、座りにくさや身体への負担につながります。また、車いすを使用する方にとっても、背中側に大きなふくらみがあると背もたれに身体を預けにくくなることがあります。
そこでスマート帯では、あえて背中側の飾り帯に厚みを持たせず、後ろ姿をすっきりと仕上げました。椅子や乗り物の座席、車いすの背もたれにも身体を自然に預けることができ、観光や移動など長時間着用する場面でも快適に過ごせる形状を、幾度もの試作を重ねながら追求しました。さらに、車いすに座った状態でも着脱しやすいよう、複雑な結び方や強い締め付けを必要としない構造にしています。立った状態での着付けが難しい方にも、できる限り負担をかけずに着用していただけることを目指しました。
すべての積み重ねが、一本の帯に宿る
訪日観光客や海外の方でも、一人で迷わず簡単に装着できること。幅広い体型に合わせてサイズを調整できること。椅子や車いすに座ったときも、身体への負担が少ないこと。そして、着物や帯が持つ美しさを損なわないこと。
これらすべてを同時に実現するために、着脱のしやすさ、サイズ調整のしやすさ、現代の暮らしに合った快適さを一つずつ丁寧に見直しました。幾度もの試作と改良を重ね、「しろくまきもの」のスマート帯が誕生しました。
着物を纏うすべての人に、美しく、心地よく、自分らしく着てほしい。
その想いが、スマート帯の細部のひとつひとつに宿っています。
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スマート帯の完成により、「5分で着られる」というコンセプトはより確かなものへと育っていきました。しかし開発はここで終わりません。次に私たちが向き合ったのは、「着たくても着られない」という、サイズという壁でした。