しろくまきもの誕生物語 第一章
訪日観光客のある光景が、すべての始まりだった
「なぜ、ポリエステルの着物にスニーカーなのだろうか」
私たちのブランドが生まれたのは、開発者がそんな疑問を抱いたことがきっかけでした。調べていくうちに、理由が見えてきました。正絹着物は高価である。仕立てに時間がかかる。そして、着付けに不慣れな人は一人では着られない。この3つの問題が、訪日観光客を正絹の着物から遠ざけていたのです。さらに、日本の草履は26cmまでしかないため、着物に合う履物が見つからず、スニーカーと合わせる訪日外国人観光客の姿も少なくありません。
だからこそ、訪日観光客に気軽に着てもらえる正絹着物を作りたい。その想いが、しろくまきもの誕生への第一歩となりました。
祖母と母から受け継いだ、着物への想い

開発者にとって、着物は比較的身近な存在でした。祖母は三味線の師匠、母は和裁の先生。そんな環境で育った開発者だからこそ、「訪日観光客に気軽に着てもらえる正絹着物を作りたい」という思いは、自然なものだったのかもしれません。
このアイデアをグループ会社のオーナーに相談すると、プレゼンが通り、ベンチャー制度を利用して着物事業を立ち上げることが決まりました。しかしこの制度は、「やりたいことをやるための時間を自分で捻出する」という趣旨のもの。開発者は本業をこなしながら、休日や出勤前後の時間を使って事業の立ち上げに挑むことになったのです。
アンティーク着物との出会い
高品質な正絹着物を調達するため、開発者が着目したのが「アンティーク着物の活用」でした。年間100万着以上(自社調べ)が廃棄されているアンティーク着物を再利用することは、日本の文化の継承と、SDGsの理念にも合致する持続可能な取り組みです。
昭和の戦後復興期から高度経済成長時代にかけて、全国の親たちは苦労を重ねながらも、娘の幸せを願い、嫁入り道具として正絹着物を持たせました。そのため、時代の変化とともに着用機会が激減した後も、親の愛情が詰まった大切な資産として、各家庭で長年にわたり厳重に保管されてきた背景があります。古風な鶴・亀・花柄など現代の日本の若者には馴染みにくいデザインが、訪日観光客が求める「日本らしさ」とマッチするという点も、私たちの確信を後押ししてくれました。
体当たりで道を切り開いた、縫製会社探し
そこで開発者が取った行動は、まさに「体当たり」そのものでした。まずは個人の縫製職人さんに依頼。品質に問題はありませんでしたが、対応できるのは月間20着程度。事業として成立させるには、最低でも数百着単位で対応できる体制が必要だという現実を突きつけられました。
そして、某工業組合に自ら電話をかけ、協力してくれる企業を紹介してほしいと無理難題をお願いしました。当初は難色を示されたものの、事業のビジョンを熱く語り続けた結果、その熱意が伝わり、日本全国の縫製会社と、大手の材料卸会社までも紹介してもらうことができたのです。大手の材料卸会社との取引口座の開設に成功し、紹介された全国の縫製会社へと次々にアプローチを続け、複数の試作品の製作へと漕ぎ着けました。
しかし、試作品は私たちが考える品質基準を満たすことができませんでした。正絹は通常の布とは違い、高度な技術を要する特殊な素材。縫製の多くが海外へ移管されてきた背景もあり、国内では技術者の後継者不足という現実にも直面しました。品質と生産体制の両立。それこそが、事業化における最大の課題でした。そのような状況の中、ようやく私たちの基準を満たす縫製会社と出会うことができたのです。
試行錯誤の末に生まれた「5分で着られる着物」
試作の段階では、複数の縫製会社との間で細かな調整が繰り返されました。「様々なサイズの着物を上下に分けて裁断・縫製できないか」「より早くきれいに仕上げてほしい」。従来の着物文化の常識に挑むような問いの連続でした。
また、着物を着たことがない海外の方が「どちらが右前かわからない」という問題にも直面。上着を羽織るだけで自然に正しい右前が完成する独自の設計を考案し、当初は紐で結ぶ形式だったものを「結びにくい」という声をもとに面ファスナーへと改良しました。こうした着用体験に基づく改良の積み重ねが、「初めての人でも一人で5分で着られる」というコンセプトの実現につながったのです。
試行錯誤を重ねた結果、2024年9月についに試作品が完成。社内からも「これなら商品化しても問題はない」という評価を得て、翌10月からすぐに量産体制に入ることができました。
予想を超えた反響と、次のステージへ

2024年12月にホームページを公開し、2025年1月には東京ビッグサイトで開催された「ライフスタイル Week」に出品しました。当初はマーケティングの意味合いで出展でしたが、廃棄される着物をリユースしSDGsの理念に沿った取り組みや、誰でも5分で着用でき、車いすの方でも着用ができるユニバーサルデザインが大きな反響を呼び、複数のテレビ局や雑誌社から取材依頼が殺到。在庫は春頃までに完売するという、嬉しい誤算となりました。
事業化の決意からわずか1年半。この場に携わるスタッフの一人として、その歩みを振り返るたびに、開発者の熱量に改めて驚かされます。一枚のアンティーク着物に宿る職人の技と時代の美意識を、現代の暮らしへとつなぐ。しろくまきものの挑戦は、今まさに新たなステージへと踏み出しています。